解剖学(生体構造学)

解剖学(生体構造学)/解剖学・神経生物学 

小澤 一史 大学院教授

神経解剖学・神経内分泌学

「脳とホルモン」をメインテーマとして、具体的にはステロイドホ ルモン受容体の脳内における発現と機能制御、海馬領域におけるステロイドホルモン受容体発現と神経細胞構造変化に関する形態科学、視床下部領域におけるステロイドホルモン受容体発現細胞とその機能発現等を研究課題として神経科学、神経内分泌学的研究体制の構築を進めています。特に、「視床下部領域における 摂食制御神経ネットワークの構築とステロイドホルモンの関連」、「摂食制御神経ネットワークとストレス応答神経系との連絡」、「思春期発現機構に関する神 経・神経内分泌学的解析」といった具体的研究課題の解析、解明を目指しています。


「ストレス」、「摂食障害」、「思春期と性機能」といった現代の社会問題 にも関連する基礎的研究テーマの解明と研究成果の社会への還元を目指します。研究手法としては免疫組織化学、蛍光多重標識法、酵素組織化学、in situhybridization、免疫電子顕微鏡法、超高圧電子顕微鏡法などを駆使して、多角的な形態科学的アプローチを展開していきます。

 

教室の特色

解剖学・神経生物学分野は研究面では、「脳とホルモン」を中心的な研究課題とし、特に思春期をはじめとする生殖機能に関わる神経制御システムや生物時計関連遺伝子発現に関わる制御機構など、いわゆる「神経内分泌学」領域の研究を展開している。生物体は常に外的、内的環境変化に対応すべく、素早い恒常性の維持機構が働く。この時、極めて早期の反応系として神経制御が関わり、加えて、ややゆったりとした、しかし確実性と特異性を持ったホルモンによる制御が加わり、全体としての生体制御が完成する。この神経系による制御とホルモンによる制御が互いに連絡、連携する場が神経内分泌の場となる。私たちの研究室では、形態学的手法、生理学的手法、分子生物学的手法、細胞生物学的手法を用いて、生体制御に関わる神経とホルモンの関連性を研究している。これらの研究基盤を中心に、麻酔科、産婦人科、整形外科、脳神経外科、精神科などの臨床各科とも密な共同研究を展開し、大学院教育にも積極的に参画している。

  一方、医学部教育としては解剖学(生体構造学)の教科を担当し、主に肉眼解剖学と神経解剖学の教育に従事している。解剖学は医学の基礎中の基礎、土台をなす教科であり、十分な理解がなされなければその先の応用展開が進まない。医学は常に応用性を求められる学問であり、だからこそ、その土台となる学問体系の重要度が増してくる。私たちの研究室はその大切な土台作りの大役を担った部門としての責任を十分理解し、その役割を十二分に果たしてきている。「優れた研究者は優れた教育者であり、優れた教育者は優れた研究者である」ことを教室員一同が共有し、研究、教育に邁進している。
 

卒前・卒後教育の指導方針
 

卒前教育

現行のカリキュラムでは本学では第2学年の春より解剖学の講義・実習が開始されます。解剖学第2講座では神経解剖学と骨学を含む肉眼解剖学を中心に学部学生の教育を担当しています。神経解剖学では神経系の仕組みについて、構造のみならず機能と連動して理解することを目標としています。中枢神経系においては各部の詳細な構造、神経核の役割、伝導路の構成などを二次元的な断面としてだけではなく、三次元的な立体構築として理解することを目標として指導しています。さらに頭部MRI像などの画像診断像の基礎が身に付くImaging neuroanatomyを積極的に導入しています。神経解剖実習では脳や脊髄の構造を実際に解析することによって講義で身につけた知識を確認し、神経系の三次元的構築が身に付いているかを確認してもらいます。

 

肉眼解剖学においては骨学実習を含み、運動器系、呼吸器系、循環器系、消化器系、泌尿器系、感覚器系などの器官系統についてご遺体の解剖を中心とした実習中心のカリキュラムで、形態学的な観察を行います。解剖学を学ぶことがなぜ臨床医学への重要な橋渡しになるのかを、様々な臨床事例を提示・説明し、ただ名称を覚えるだけの学問ではなく、アクティブにその形態の意義、機能との相関を追求するダイナミックな姿勢を引き出すことを目標としています。我々教員は、学生に「助言する、励ます、認める」という姿勢を持ちながら、その上で「自ら問題点を探し、自ら解決するためのツールを探し、自らが答えを導き出す姿勢を引き出す」ことを解剖学教育の大きな原点とし、全国に誇れる教育体制の確立を目指しています。

 

卒後教育

主に大学院生と研究生を中心とした教育システムで、さらに広く基礎、臨床各科との共同研究を通した教育活動も積極的に行います。研究指導のテーマは主任教授のテーマを中心に、神経解剖学、神経内分泌学領域のテーマが中心となりますが、臨床的見地からの研究も教室が有する様々な研究技術を用いて指導しています。

 

研究指導スタッフは主任教授:小澤一史、准教授:飯島典生、講師:託見 健、石井寛髙、助教:楊 春英、岩田衣世、肥後心平の7名が担当しています。大学院生の主科目と副科目の選択については(1)生体制御形態科学を主科目とする場
合には、当研究室を研究活動の中心の場とし、研究テーマとしては「脳とホルモン」の課題に関連するテーマを中心に指導します。研究の進展や発展性を加味して、必要に応じて国内外の研究協力機関での研究発展が可能になるよう最大限の
サポートをする予定です。国外の研究協力機関としては主任教授・小澤一史の関係から、フランス国立科学研究所(CNRS)、オックスフォード大学(英国)、エジンバラ大学(英国)など、国内では自然科学研究機構生理学研究所、京都府立医科大学、群馬大学、高知大学、産業医科大学、放射線医学総合研究所などがあります。(2)副科目として当研究室を選択する場合は、神経解剖学、神経内分泌形態学あるいは肉眼解剖学の基本的な研究手法をマスターし、さらに教室の勉強会や研究発表会などの行事に参加し、自己の研究成果を報告することが義務となります。また、研究生は少なくても週に1日以上研究活動に従事できることを基本条件とします。

 

研究業績 

研究業績(原著)についてはこちら

主な研究内容

「種の保存」という生命の重要な本能行動は脳の神経系、および神経内分泌系と呼ばれる仕組みによって調節される。この仕組みが成熟し、十分な機能として発現すると生殖に関わる精巣や卵巣といった生殖器官が反応し、生殖活動を開始することが出来る。つまり、我々の「種の保存」は脳の活動によって制御されるといっても過言ではない。この機能が働き始めると男性では生殖器官の発達、筋力の増加、甲状軟骨の発達による音声の変化(俗に言う喉仏の発達と声変わり)、女性では丸みを持った女性らしい体型の構築、月経の始まり(初潮)などの変化がおこる、“第二次性徴”が起こる。この時期をはさんだ、性成熟過程を「思春期(puberty)」という。WHO、世界保健機構が掲げる「思春期」の定義は以下のようになっている。

 ・二次性徴が始まり、性成熟が完成するまでの段階
 ・子供から大人に向かって発達する心理的プロセス
 ・自己認識パターンの段階確立
 ・社会経済上の相対的な依存状態から完全自立までの過渡期


 このように、生殖科学的な内容ばかりでなく、心理的、精神的な事象をも含んで「思春期」を捉えているところに、大きな意味がある。生殖に関わる神経活動は、単に生殖といった問題だけでなく、私たちの感情や欲望といった情動的、精神的な問題とも深く関わる。つまり、そういった高次精神活動を制御する神経制御機構とも連絡する可能性が高く、様々な因子が関わることが想定される。これらの複雑な因子の相互作用を丹念に解析することによって「種の保存」という、生物にとって極めて重要な生存維持の仕組みを理解することが出来る。

 「性」に関わる神経および神経内分泌機構には、「食」すなわちエネルギー代謝調節に関わる神経制御機構が深く関わる可能性がある。思春期を迎える、まさに発育過程にある少年少女が、激しいダイエット等で栄養状態のバランスが崩れると、正常な思春期を迎えることが出来なくなる可能性が高まる。この様な時には、大きなストレスが加わり、その結果、精神的な障害が生じることも多々ある。これらの不安定な状況が生じる背景には男女差があることも報告されており、これらの神経系、神経内分泌系制御機構に性ホルモンが関係する可能性も考えられる。

 私たちの研究室では、これらの脳の仕組みを、形態科学的、分子細胞学的、電気生理学的、超微細構造科学的に解析し、その基礎的なデータが、小児発達学、精神神経医学、婦人生殖医学などの臨床医学の現場に、また学校保健などの社会に還元することが出来ることを目標に研究活動を展開し、そして、これらの研究を通し、神経内分泌に関わる細胞や機能と深く関連性を持つ大脳辺縁系における高次脳機能、すなわち「こころ」を構築する仕組みの解析を目指している。


具体的な主な研究は以下の通りである。
 

1) 思春期発現とエネルギー代謝調節の連動に関する神経学的、神経内分泌学的解析

  思春期発現には視床下部領域のGnRH(gonadotropin-releasing hormone 性腺刺激ホルモン放出ホルモン)ニューロンの機能発現が重要な因子となりますが、GnRHニューロンの機能発現には様々な因子が関わることが報告されており、特に近年、エネルギー代謝調節機構との関連にも注目が集まっています。そこで、摂食制御やエネルギー代謝調節に関わる神経機構とGnRHの機能発現の相関関係について形態科学的に解析を進めるプロジェクトを開始しています。また、これまでに研究を重ねてきた脳内GnRHニューロンの機能とその起源の解明に関する研究展開も進めています。


2) GnRHニューロンの機能制御に関わる神経因子の解析

 GnRHニューロンが思春期の前後に活発に機能発現を起こす因子には、エネルギー代謝調節系、GABA系・Glutamate系などの神経伝達物質の関わり、そして近年新しく発見されたKisspeptinという生理活性ペプチドもGnRHニューロンに大きな影響を与えていることが知られるようになってきました。これらの因子の思春期前後における変動とそれに対するGnRHニューロンの反応やニューロンの形態変化などについて、多重標識蛍光免疫染色法、in situ hybridization法、遺伝子組み換え技術などを駆使して解析します。


3)摂食制御神経ネットワークの構築とステロイドホルモンの影響について

 視床下部領域には摂食制御に関わる神経細胞が多数存在し、それぞれの神経細胞間で複雑なコミュニケーションを構成することが細かく解明されつつあります。これらの神経細胞のネットワークを三次元的に解析し、制御機構に関わる神経細胞の形態変化、機能発現について解析します。さらに、これらの神経ネットワークにglucocorticoidsなどの副腎皮質ホルモンやestrogenなどの性ホルモンがどのように関与するかについて、これらの受容体タンパク発現細胞との関連より解析しています。こういった基礎的研究を通して摂食障害と神経制御機構の関連の解析を目指しています。


4)性機能調節、摂食制御調節、ストレス応答系とのクロストークについて

 性機能調節系としての新しいkisspeptin-HPG軸の概念にはエネルギー代謝調節の仕組みが深く関わっている可能性が高い。Kisspeptinニューロンには脂肪細胞からのleptinに対する受容体が発現していることが知られている。一方、摂食制御に関わる視床下部神経系の一部は室傍核のCRH (corticotropin-releasing hormone;副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)と直接のコンタクトを有することが解明されてきた。また、我々の研究からkisspeptinニューロンにもCRH受容体が発現し、性機能調節系にストレス応答系のシグナルが直接伝達され、影響を与える可能性が高まってきた。これら性機能調節に関わる神経ネットワーク、摂食制御に関わる神経ネットワーク、そしてストレス応答に関わる神経ネットワークが三次元的に複雑な交叉を構築し、互いに連絡し合っている可能性が高いと考え、その機能形態学的三次元構築の解析を行っている。


5) 神経-グリア相互作用連関の解析

 神経系を構成する要素は、神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア)、それに多数の血管からなります。グリア細胞、特に星状膠細胞(アストログリア)は血液脳関門を構成する細胞でもあり、また神経細胞の支持、栄養に関わる細胞としても重要な働きをこなしていることが知られています。最近では、単なる支持、栄養細胞としての働きだけでなく、より積極的なニューロンへの働きかけがあり、ニューロンの機能制御に直接的に関わっている可能性も示唆されています。そこで、上記の生殖神経内分泌に関わるGnRHニューロンの機能制御にグリア細胞がどのように関わるのかを組織細胞化学の観点から解析しています。


6) 麻酔による時計遺伝子発現と概日リズムへの影響に関する分子生物学的研究

 麻酔によって痛みや意識が消失し、それによって外科的侵襲に耐え、安全で苦しみのない治療が確立されているが、何故麻酔が効くのかの根本的な理由は明確ではない。これらの課題を考える一貫として、麻酔学講座との連携、共同研究として、吸入麻酔薬が間脳視床下部視交叉上核で発現する時計遺伝子の発現にどのように影響を与えるか、またその結果どのような概日リズムの変動が生じるかについて、分子組織化学的解析、行動実験などを行うとともに、標的遺伝子の発現変動に及ぼすepigeneticな変化について分子生物学的解析を進めている。
 

7) ステロイドホルモン受容体の分子構造と機能に関する研究

 ステロイドホルモン、特にエストロゲン受容体の分子構造について、その変異体の発現と作用機序に関して解析を進めている。完全型の分子構造をもつ受容体と、様々な受容体バリアントの間で起こりえる受容体機能の相互調節に関しての研究展開を目指している。そして、ホルモン依存性の疾患などにおけるこれらの調節機構の関与について考察する。

 

【研究室で用いられる主な研究方法】

免疫組織化学、多重標識蛍光免疫染色法、in situ hybridization法、電子顕微鏡法、超高圧電子顕微鏡法、組織・細胞培養、Immunoblotting法、PT-PCR法、パッチクランプ法(電気生理)など

【共同研究機関】

大阪大学超高圧電子顕微鏡センター、早稲田大学、京都府立医科大学、東北大学医学部、群馬大学医学部、独立行政法人自然研究機構生理学研究所、独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究グループなどとも共同研究を行い、研究の展開が広がるよう努力している。

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